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vol.977

令和3年5月の海況について

1. 5月の海況概要

〇黒潮域
・5月前半は黒潮流路の変動が大きく、上旬は熊野灘南沖と伊豆諸島付近の2か所で蛇行するW字型の流路だったが、中旬以降は伊豆諸島付近の蛇行は解消し、典型的大蛇行流路となった。
・黒潮蛇行内側の冷水渦(図1-1A)は前月よりやや西進するとともに、本州南方の黒潮流路全体が西進するような形となり、九州〜四国(図1-1@)では中旬以降は接岸した状態が続いた。
・潮岬以東では、蛇行が拡大し、最南下緯度は30〜31°Nであった。伊豆諸島西沖を北上後は御蔵島付近を通過した。
・房総半島沖の冷水渦(図1-1E)は上旬に黒潮続流より切離され、西進して房総半島沖の黒潮流軸に近づきつつある。
・黒潮流軸の水温は前月より1〜2℃昇温し、南西諸島周辺は25〜26℃、九州〜四国沖は23〜24℃、関東・東海沖は22〜23℃、続流域は20〜21℃であった。
・四国〜熊野灘沖(図1-2C)は黒潮内側域の冷水渦の影響により、近年より1〜2℃低めであった。遠州灘沖では引き続き暖水波及がみられたが、前月より弱まり近年より高めの海域は縮小した。
・南西諸島東沖及び小笠原付近(図1-2B)は日射や暖かく湿った大気の影響により広範囲で近年より1〜2℃高めであった。

〇親潮域・混合水域
・黒潮続流の北上は前月より弱まったが、引き続き北偏しており仙台湾東沖の37〜38°Nまで北上していた。この影響により、常磐北部〜三陸沖(図1-2D)は続流に沿って近年より3〜5℃高めであった。
・常磐沿岸には黒潮続流から暖水渦(図1-1B)が張り出し接岸していた。三陸北部沖の暖水渦(図1-1C)は黒潮続流より切離され、前月より若干北東に移動した。この暖水渦は16〜17℃のほぼ均一な水温で、この影響により三陸沖(図1-E)は近年より4〜6℃高めであった。
・釧路南東沖の暖水渦(図1-1C)も北東に移動し、前年同時期より水温は低いが今期も暖水渦の構造は維持され、下旬には三陸沖暖水渦(図1-1C)からの暖水補給がみられた。
・親潮(図1-1A)の沿岸分枝南端は40〜41°N・143°E付近で前月より後退し、沖合分枝南端は39〜40°N・146°E付近で前月より南下した。沿岸分枝は三陸沖の暖水渦(図1-1C)の影響で下旬には不明瞭になった。
・親潮面積は上旬〜中旬は平年並みであったが、下旬には平年より小さくなった。

〇東シナ海〜日本海
・対馬暖流の流路は期間を通して沖合にあったが、さらに沖合化が進み、下旬には大和堆付近を通る近年にないはるか沖合の流路(図1-1H)となった。
・2021年度第1回日本海スルメイカ長期漁況予報の新規加入量調査結果や漁期前分布調査結果でも隠岐諸島以西や沖合でスルメイカが多く、対馬暖流がはるか沖合の流路をとっている事と関係していると考えられる。
・対馬暖流の勢力は平年より強めであったが、徐々に弱まり下旬には平年並みになった。
・極前線は徐々に弱まったが、40°N付近に残っており、この極前線に沿って今期も渦が多い状態が続いた。特に朝鮮半島北部の暖水渦(図1-1F)前月とほぼ同じ位置に停滞した。海面水温は北部や沖合の40°N前後を中心に平年より2℃前後高い状態が続いたが、本州沿岸は対馬暖流が沖合の流路であった影響や、日射が少なく風が強かった影響で、前月の高めから一転して近年より1℃弱低めになった(図1-1H)。
・東シナ海は、日射が多く、暖かく湿った大気の影響で、全域で近年より1〜2℃高めであった。

2. 黒潮流軸と房総半島沖の冷水渦

・2021年5月上旬は黒潮続流域の145〜146°Eで蛇行A(図2-1)が発達していた。上旬〜中旬にはこの蛇行は黒潮続流より切離されて冷水渦A(図2-2)になった。
・冷水渦Aは、中旬には145°E付近、6月10日(図2-3)には144〜145°Eへと徐々に西進した。
・6月10日には冷水渦Aの西進とともに、房総半島沖の黒潮流軸が離岸して冷水渦Aに近づいた(図2-3)。
・このように、黒潮続流より切離された冷水渦が徐々に西進して、房総半島沖の黒潮流軸に近づく現象は過去にも起きており、近年では2019年の春〜初夏にみられた。
・2019年3月下旬(図2-4)に黒潮続流域で発達した蛇行Bは直後に切離され、6月上旬(図2-5)には冷水渦Bは房総半島沖まで西進するとともに、黒潮流軸に接近した。2019年6月中旬(図2-6)には房総半島沖の黒潮流軸に冷水渦Bが取り込まれ、その北側では暖水渦Cが切離された。
・2019年は蛇行部からの冷水渦切離から黒潮流軸への取り込みまで3か月弱かかっており、今期の冷水渦Aの切離も同じ経過をたどるとすると、7月に房総半島沖で冷水渦Aが黒潮流軸に取り込まれる可能性がある。
・現在、黒潮続流の北上部や冷水渦Aの周辺海域はかつお竿釣り船の漁場となっており、冷水渦Aの移動を注視していく必要がある。

   (海洋事業部)
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