水産関係者との意見交換会「スルメイカ冬季発生系群とその他イカの資源状態と漁況予報をめぐって」(表1)が、2月17日に石川県小木で64名の参加者を得て開催されました。冒頭で、スルメイカの資源減少と不漁によって国内価格が高騰し、更に海外の主要イカの資源悪化でイカの国際価格も高騰しているとの説明がありました。日本のイカ関連水産業を健全に保つためにも、産業横断的な対策を考える必要がある事が強調されました。
本系群の資源量は2016年以降減少し、親魚量は資源評価算定規則で回復措置を講じるべき水準にあります。2019年は、東シナ海から流入する幼イカの分布が例年以上に大陸寄りになったと考えられ、2019年の漁場一斉調査では正しく資源量を推定できないと判断されました。このため、2019年は、2018年並の資源量であったとしていますが、例年以上に不確実性が高い状態です。本資源の評価が不確実性を含む大きな要因の一つとして、中国・北朝鮮の漁獲量、努力量等が不明であり、各国間の協力による評価・管理が必要と思われます。
本年漁期の漁況の経過は、道北・道央では7月以降は近年の平均を下回り、例年見られる7〜8月及び10〜11月の漁獲のピークは見られませんでした。道南・津軽でも7月の漁獲ピークは見られず、8〜10月は近年並みで推移し、それ以降は低調な漁模様でした。本州北部日本海では、漁獲のピークが後ろにずれて7〜8月及び12月にピークが認められました。西部日本海では夏季の漁獲が近年を上回りましたが、12月のピークは見られませんでした。
2000年代以降、秋季の対馬暖流の水温が高くなり、スルメイカの産卵・発生の遅れや成長速度の低下が起きています。秋季の高水温と低成長が続くと産卵・回遊・成長がさらに遅れ、資源の減少、魚体の小型化、漁場の北偏が一層顕著になる可能性があります。2019年は沖合へのスルメイカの来遊が低調で、魚体も極端に小さいことが確認されました。このため、沖合イカ釣り漁船の漁獲も極めて低調で、魚体の小型化が大きな要因と考えられました。本年は北海道沖でもほとんど漁場が形成されませんでした。この理由として、スルメイカが大陸寄りに分布していたことが考えられます。
資源量は2015年以降大きく減少しており、2019年は14.4万トンで、過去2番目に低い水準と推定されました。1979年以降の資源尾数の推移から資源水準は低位、過去5年間の資源尾数の推移から動向は減少と判断されました。2019年漁期終了後の親魚量は、管理基準の閾値(Blimit)を下回ると推定されたことから、資源の回復措置が必要な状況にあると判断されました。2002年以降の再生産成功率は低めになる年が多く、産まれてから漁獲対象となるまでに生残確率が低下している可能性が考えられます。
2020年は、海外の主要イカ資源であるアルゼンチンマツイカもアメリカオオアカイカも低水準と予想され、昨年同様に期待できないと見られます。一方、北太平洋のアカイカ夏漁は2019年には魚体が大型化して水揚げの増加が見られました。資源水準が増加していると見られ、今後の価格の安定したアカイカの利用が期待されます。
Q:2015年頃から親魚量は低く、現在、回復措置がなされているにも関わらず資源が増えない原因は何か?
A:2015年頃に再生産成功率(RPS)が低下したことが効いている。また、正確な情報が得られていない外国船の漁獲の影響もあると思われる。
Q:産卵期や産卵場など全体的な遅れが生じているのか?
A:イカの魚体サイズなどから産卵期の遅れは考えられるが、稚仔調査では産卵期の遅れは観測されていない。また、産卵期の遅れの可能性に加えて、成長速度が遅くなっている点も指摘しておきたい。
Q:今年は武蔵堆の漁場復活の可能性はあるか?
A:昨年(2019年)漁場形成されなかったのは例外的だったと思う。ただし、資源が減る時は大陸寄りに漁場ができる傾向から、近年のように資源水準が低い時期には日本にとっては厳しい状況かもしれない。
Q:夜間可視画像でロシア水域に漁灯が見えるが、ロシアで獲られているのはイカか?
A:集魚灯を使う漁業であることからイカを獲っていると考えられる。
Q:来年の予測も含めて、日本海の海流の影響はどうか?
A:昨年は対馬暖流の勢力が例年になく強く、朝鮮半島の東岸に沿って強い流れが観測され、日本海中央部に大きな蛇行も発生させた。このような状況がスルメイカの大陸寄りの回遊に結びついた可能性がある。こうした対馬暖流の強い勢力が2月以降も続くかどうかの海洋物理学的予測は難しい。今後の対馬暖流勢力の動きに注目してほしい。
Q:2019年は5月に輪島底曳でなぜ豊漁となったのか?
A:石川県沿岸のニギスを狙う底曳でスルメイカが漁獲された。この漁場では表面水温が高かったことから、イカが潜って底曳にかかったのではないだろうか。
Q:昨年11月に羅臼で獲れたスルメイカは冬季発生系群か?
A:その通り。昨年7月に実施したトロール調査で三陸の沖合に若齢のスルメイカが獲れている。これらの群が沖合を北上して北方四島水域から道東海域に来遊したのではないかと見ている。