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vol.878

小木での水産関係者との意見交換会

1.はじめに


 平成31年(2019年)3月19日に小木にて水産関係者63名が参加して意見交換会「スルメイカ秋季発生系群の資源状態と漁況予報をめぐって」(表1)が開催された.冒頭で,スルメイカの漁獲が減少して価格が高騰する状況で,国際イカ加工原料となったアメリカオオアカイカをめぐり,IUU(違法・無報告・無規制)漁業問題を抱える中国が漁獲したイカが日本市場にも影響を与え始めていることが報告された.このような厳しい背景のもと,@今年の秋季系産卵系群の資源状態と漁業の状況,A石川県の調査船調査の長期データの解析結果の紹介,B冬季発生系群の資源状況、等について各機関からの報告を受け意見交換が行われた.

2.スルメイカ秋季発生系群の資源評価


 近年は2014年以降,減少傾向にあり,2018年は中位水準と判断された.今年度の資源評価では,2018年の親魚量がBlimit(再生産成功率が高い時に高い加入量が期待できる親魚量)を下回ると推定されたことから,親魚量をBlimit以上に回復することを目標とするシナリオとした. 近年の調査では,秋季の産卵場付近の高水温化が原因と考えられる山陰〜東シナ海北部での幼生分布量の減少や,2000年前後以降の再生産成功率の低下が認められた.このほか,現状の評価では中国や北朝鮮による漁獲が考慮できていないことで再生産成功率が実際より低く見積もられていることも考えられる.関係各国間の協力による評価・管理が必要である.

3.スルメイカ秋季発生系群の漁海況の経過と長期予報の検証

秋季発生系群では5〜6月の漁況は前年を下回り, 6〜7月の漁場一斉調査でのスルメイカの密度も前年を下回った.しかし, 7月に漁獲が持ち直したことから,全体としては不漁の前年並としたが,予測とは異なり前年を下回った.@道北・道央では,同海域の漁獲量が例年と比べ多かった前年を下回ったものの,近年平均を上回り,10月に集中した漁獲が見られた.A道南・津軽では,漁獲量は前年および近年平均を大きく下回り,不漁であった前年の2割程度の漁獲量に留まった.B本州北部日本海,西部日本海は,今漁期の12月については,例年見られる漁獲のピークは出現せず,前年および近年平均を下回る漁獲となった.

4.1970年代末以降のスルメイカの資源変動と魚体サイズの変化

 現代的な装備で調査が行われるようになった石川県の調査船白山丸による過去41年間のイカ釣試験操業の結果を整理し,資源水準,魚体サイズ,回遊時期の変化について検討した.資源水準を代表するCPUE(釣機1台1時間当たりの漁獲尾数)を標準化した結果,1980年代初頭から中頃に低下し,1980年代末から2000年代初頭に上昇し,その後,低下する傾向が見られた.8〜10月の魚体サイズは1980年代中頃まで小さく,1980年代末から2000年代初頭には大きく,それ以降,小さくなっていることが分かった.2000年代以降の魚体の小型化は成長の季節的な遅れと成長速度の低下によるものと考えられた.南下回遊時期は,1980年代中頃や1990年頃よりも遅い.従って,成長が遅れているだけでなく,1990年代中頃以降,南下期にも遅れが生じていると考えられる.1980年代以降の秋冬季の水温上昇にともなってスルメイカの生活史全体が季節的に遅れたものと考えられた.

5.スルメイカ冬季発生系群の資源状況

 2015年以降資源量は減少に転じており,2016年以降の資源量は低位水準にあると判断されていた.主産卵場である東シナ海における水温環境との関連を検討した結果,2015,2016年の水温環境はスルメイカの生残にとって不適であったと見られた.この影響により資源量は大きく減少したと考えられた.2017年の水温環境は平均的であり,2017年の資源量はほぼ横ばいで推移したものの,2018年の水温環境は再び不適となり,その結果,2018年の資源量はさらに減少したと考えられた.2018年に実施された調査結果は,いずれも近年平均を下回り,資源の減少を裏付ける結果となった.

6.全体的意見交換

各講演にかかる主たる質疑応答は下記の通りであった.
1)標識放流の回収法は?:貴重なデータを得るためには漁業者からの回収率を高める工夫が重要であることが指摘された.
2)昨年に比べて境港で1-2月に水揚げが増加した要因は?:山陰での漁獲の増加について、一昨年に鳥取沖の冷水の差し込みと考えられる漁場形成が考えられたが,今年は特に目立った冷水の差し込みはなく原因は検討中である.
3)白山丸調査データの標準化CPUEには集魚灯やイカ釣機などの技術革新に係る説明変数は入っているか?:数値化が難しく入れていない.これらを考慮すれば実際の資源水準は現状よりもかなり低いと思われる.
総合討論ではさらに下記の追加情報が報告された.
1)最新の北朝鮮船の情報:全国いか釣り漁業協会の川口会長から、北朝鮮の違反操業ならびにそれに関係した韓国・中国の情報が報告された.
2)アカイカ情報:前述川口会長ならびに酒井からスルメイカの代替釣り漁業として北太平洋のアカイカ漁について追加報告があった.スルメイカとは異なる漁法・漁場であることから,アカイカ漁参入の場合には事前に十分な情報収集が必要であることが付け加えられた.


   (酒井光夫)

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