平成30年(2018年)12月20日に八戸市で水産関係者104名が参加して意見交換会「スルメイカ冬季発生系群の資源状態と漁況予報をめぐって」(表1)が開催された.冒頭で,スルメイカを取り巻く情勢として,漁獲の減少と価格が高騰する中で,イカ加工の国際原料であるアメリカオオアカイカをめぐり中国のイカ釣操業がIUU問題を伴いながら日本のイカ市場にも影響を与える可能性が指摘された.このような厳しい背景のもと,
@今年の資源状態と漁業の状況,A青森県のスルメイカ漁海況,B岩手県のスルメイカ漁海況,C資源減少の要因,等について各機関からの報告を元に意見交換が行われた.
2015年以降資源量は減少に転じており,2016年以降の資源量は低位水準にあると判断された.スルメイカ冬季発生系群の主産卵場である東シナ海では,2015,2016年の水温環境が卵稚仔の生残にとって不適であったとことから,2015年以降の資源量は大きく減少したと考えられた.また,2017年の水温環境は平均的で同年の資源量はほぼ横ばいで推移したが,2018年の水温環境は再び不適となり,その結果,2018年の資源量は更に減少したと見られる.2018年漁期終了時の親魚量は,回復措置が必要になる親魚量の水準を下回ると判断された.
調査船による漁場一斉調査結果に基づく@スルメイカの分布密度(≒資源状態),A海洋環境,及びB直近の漁況経過の情報から,本年は漁期前・後半とも津軽海峡〜道南太平洋以南では前年並,常磐〜三陸海域では前年を下回ると予報した.2015年以降,スルメイカ冬季発生系群の資源量は顕著な減少傾向を示し,各地の漁況に大きな影響を与えた.青森県白糠以南〜宮城県での1隻1日当たりの漁獲量は前年並であったが,水揚げ量および水揚隻数は前年を下回った.一方で,津軽海峡〜道南太平洋では,1隻1日当たりの漁獲量,水揚げ量および水揚隻数も前年並であった.前年は北海道沿岸域においてスルメイカの北上来遊を妨げる低水温の水塊が分布していたが,本年はそれが解消されたことで浦河の沿岸域に漁場が形成されたと考えられた.
青森県における2018年の小型いか釣り漁業による5〜11月の漁獲量は765トン,前年比46%と減少し1977年以降過去最低となった. CPUE(一隻当たりの漁獲量)は179s/隻数で前年比76%となり,漁模様の悪かった1980年代並みの水準であった.海域別では,日本海沖合域,沿岸域共に本州沿岸域でのスルメイカ分布密度が低かったことから,青森県沿岸域でほとんど漁場が形成されず低調に推移した.津軽海峡については,日本海からの来遊量が少なかったことから低調に推移した.太平洋については,7月以降,津軽暖流の渦モードが強く,沿岸域の水温が高めに推移し漁場が形成されにくい海洋環境に加え,冬季発生系群の資源量が低位で来遊量が少なかったことなどから,低調に推移したと考えられた.
本県海域の2018年漁期の状況は,11月中旬までの漁獲量は2,288トン,前年同期比76.7%となり1990年以降最低であった.漁獲量を旬別にみると,5月上旬〜8月中旬まで前年を下回る極めて低い水準で推移し,9月上中旬にはトロールの漁獲が急増した.しかし,その後,9月下旬に急減し,以降トロールを中心に概ね前年並みの水準で低調に推移した.8月中旬までの漁獲が極めて低調となった要因は,冬季発生系群の資源量減少に伴う来遊量減少に加え,本県海域での北上暖水が強まり沿岸域に水温フロントが形成されず,魚群が沖合域に分散し易い海況条件となったためと見られた.一方,8月下旬〜9月中旬に一時的に漁況が好転したのは,親潮系冷水の勢力が強かったことに加え,県南部〜県中部海域に暖水が波及して主要漁場にかけて顕著な水温フロントが形成され,魚群が沿岸域に蝟集し易い海況条件となったためと考えられた.
総合討論講では講演全体を通して関心の高かった3課題,
1)日本海の外国船情報
2)資源回復の可能性
3)国際的な資源管理・外国との協力の可能性
について意見交換を行われ,以下に要約された.
1)最新の北朝鮮船の情報,北朝鮮の違反操業に関連した韓国情報の追加報告が全国いか釣り漁業協会の川口会長からあった.また,日水研の久保田氏より,冬季発生系群に関しては外国の漁獲圧は低いと考えられるが,秋季発生群では外国船の影響も考慮が必要との見解が示された.
2)現状は以前の寒冷レジームと異なっているものの日本周辺の水温低下が見られる.過去の周期から考えると10年ほどで変動しており,短期での回復は厳しいと思われる.
3)韓国とは情報交換をしているが,国際管理となると現状では難しいと思われる.
その他,漁業者からは資源が低下している中での外国船も含む漁獲の影響について,突っ込んだ説明がほしいという意見が多かった.また、スルメイカ資源が低い状況でローカル群の漁獲が目立つことから,それらを漁獲することによる資源への影響を危惧する意見も出た.スルメイカ資源の低下と漁獲量が減少する中で,操業を巡って漁業者からの意見がますます厳しくなってくると思われた.