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vol.832

日本の水産業の未来

はじめに

 水産業は水産資源を食料として獲るあるいは養殖することを中心に,造船・漁具・加工・流通・マリンレジャーなどすそ野の広い産業です.日本には世界4大漁場の一つがあり,亜熱帯から亜寒帯にまたがる世界第6位のEEZ面積を有し,多種多様な水産物を利用する魚食文化とそれを支える社会・経済システムが発達した,世界でも稀有な国です.
 しかしながら,近年の日本水産業は衰退産業と見られ,成長著しい世界の水産業とのギャップを感じる方が多いのではないのでしょうか?その中で,日本水産学会誌の最新号(83巻1号)に掲載された垣添直也さんによる巻頭言「日本の水産業は本当に衰退産業か?」を読み,2月10日に下関市で開催された第19回西日本まき網漁業シンポジウム「まき網漁業の経営持続の在り方を考える」に出席しました.今回は,これらから感じた日本の水産業の未来について,前号(831)「地球温暖化と水産資源の未来」に続いて,個人的な考えをまとめてみました.

資源と漁場環境の持続性の担保

 養殖業にはブリなどの給餌養殖とカキやワカメなどの無給餌養殖があります.近年は世界的な魚粉価格の上昇により給餌養殖の経営が厳しい状態にある中で,ニホンウナギのように天然種苗が減少し価格が高騰した魚種もあります.また,養殖場の環境が悪化すると赤潮などダメージが生じます.一方,天然資源を漁獲する漁業では,持続的な漁獲のために資源管理が強化されています.従って,養殖でも漁獲漁業でも漁場保全を含む持続性の担保が今日的な課題です.この課題については,2020年の東京オリンピックでアスリートらに提供される食材の提供が重要な契機となると思われます.

生態系から最大の価値を創造する産業へ

 このタイトルは垣添さんによるものです.水産業はすそ野の広い産業ですから,「最大の価値」も様々な関連産業を通じて得られるはずです.また,日本の漁業や無給餌養殖業は離島を含む全国津々浦々で長年行われており,地域文化の形成などに大きくかかわって来ました.そのため,経済的な価値に加え,このような文化的あるいは教育(食育)などへの貢献も忘れてはならないと思います.
 「まき網漁業の経営持続の在り方を考える」では,「獲る・売る・食べる」をキーワードとして討論があり,これまでの反省点としては漁獲量に重点を置きすぎたこと,今後は売り先に応じた鮮度保持,漁獲コスト(特に省人化),人材育成の見直しが必要との意見がありました.さらに,これらを具体化するための新技術や漁業先進国の事例が紹介されました.なお,韓国からの出席者によると,韓国でも日本と同様な問題があるとのことでした.
 これら問題点の解決は,大手スーパーマーケットがいわゆる四定条件の元で主導権を握る中で,一朝一夕あるいは一律にできるものではないと思います.例えば,水産総合研究センター(現在の水産研究・教育機構)が2009年に公表した「我が国における総合的な水産資源・漁業の管理」(http://www.fra.affrc.go.jp/pressrelease/pr20/210331/)においては,水産資源・漁業管理は,@資源・環境保全の実現,A国民への食料供給の保障,B産業の健全な発展,C地域社会への貢献,D文化の振興という5つの面を伸ばす総合的な政策であるべきだと提案しています.また,それを効果的に行うための水産資源・漁業管理のグランドデザインの明確化,制度的柔軟性の向上,流通システムの改善,科学的知見・モニタリング精度の向上といった合計8つの改善のポイントを示しています.さらに,経済的効率性,地域の役割,食料供給保障などのどれを重視して水産資源・漁業の管理をするかといった3つの政策の選択肢を提示し,この選択肢は国民が選びとるものとされました.そのため,アンケート調査を行ったところ,「@沿岸漁業は,地先の資源管理のみならず,各地の生態・文化に応じた多様な環境保全をも中心的に担う漁業へ,A沖合漁業は,各水域の資源・生態にあわせた競争主義的施策を導入し,産業効率の改善と生産の増大を追及」という選択肢が多くの支持を得ました.

外国船による浮魚類の漁法との比較と課題

 沖合漁業での競争には,国内のみならず近年日本周辺で増加している外国船,あるいは大西洋サバなど輸入原料を供給する外国漁業も含まれます.「まき網漁業の経営持続の在り方を考える」では,中国漁船が用いている漁法(虎網・投光敷網・投光かぶせ網)とノルウエーなどのパーサートローラー(まき網と中層トロールを兼ねる千トン級漁船)と日本のまき網との比較が紹介されました.これら外国船はいずれも単船操業で,漁具の操作性・漁労費(中国船といえども人件費割合が大きいとのこと)・燃油消費量が,船団操業を行う日本のまき網より優れていることが指摘されました.ただし,安全性や資源管理上の課題がある漁法もあるため注意が必要です.このような効率的・省人的漁法の導入や異漁法兼業などを検討する場合,制度的柔軟性が必要です.
 一方,日本のまき網船でも,少量漁獲でも活魚販売や船上生〆などにより経営を安定させている事例も紹介されました.販売については市況情報,効率的な漁場選定や漁船運航については漁海況情報が重要であり,今後ともJAFIC情報の活用とご意見ご要望を頂けると幸いです.

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