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vol.772

岩手県宮古市の現状(後編)


 海岸線に沿った国道に面して並ぶ民家や商店の多くが、建物の土台や基礎を残すのみとなっています。
 瓦礫も所々にあり、頑丈そうな金庫も放置されたまま。そんな中、新しい店構えで鮮魚店が営業していました。また少し先に進むと、赤い幟と「近日開店」の札を発見。なんだか荒れ地に咲く野花のようでした。

 駅からゆっくり歩いて30分弱で宮古市魚市場に到着し、教えて頂いた通りプレハブの仮設事務所へ。宮古漁業協同組合の市場販売部石田課長にお話を伺う事ができました。


 まず質問したのは港、船、加工、製氷(冷蔵庫)の現段階での復旧状況でした。嬉しい事に、船は地元の方の想像をはるかに上回る早さで復旧したそうです。
 予想では震災前に操業していた大型のサンマ船58艘の内、「20艘でも年内に操業開始出来たら御の字」と考えていたところ、現在すでに42艘が操業していました。


 宮古では主に生出荷される秋刀魚の最盛期でもあり、間近に控える秋サケの為にも製氷は重要な問題です。元々あった工場は3つ。全てが被災したものの現在一つはフル稼働出来るまでになっており、取材当日の水揚げ210tなどはまだ余裕があるそうです。最高500tまでは対応でき、本来であれば700t、800tでも可能だったはず、と。


 しかし水揚げが現状の製氷や加工の処理を連日超えてしまう場合は受け入れが出来ない。その結果、厚岸は300tから900t、花咲は1千tから3.5千t、釧路は200tから1.2千という北海道を中心とした連日の集中水揚げとなっています。そして全く意図していないのにも拘わらず、産地偽装のように受取られる可能性もあることから非常に不安を覚えているそうです。

 宮古の街や港を歩いて、他と同様に被害は甚大であったでしょうが「ここは復興に対する勢いがある」という印象を受けました。実際に街や店で会った人々にお話を伺うと、「宮古は他に比べたら復旧は早い方」と口を揃えておっしゃいます。とはいえ、未だ未だ支援は必要だとも強く感じました。

 残念な話もあります。田老にある宮古水産加工組合は壊滅的な被害に遭い、再建を諦めたそうです。今後どのようにするかはこれから検討するということでした。

 そしてここでも、風評被害により一時は大打撃を受けたそうです。消費者の不安を払拭する為に、水揚した魚の線量計測を実施して報告。そのデータは水産庁のホームページでも随時公開され、一時に比べると被害は縮小傾向にあるようです。

 「決して安く無い検査料を、どこに請求すればいいんでしょうね…」と本音が漏れる一瞬もありました。国の基準を満たし、それ以上に消費者に誠実であろうとする漁業者に対して、我々消費者は正確な知識と正常な判断力を持って対応しなければいけない。改めてそう思いました。

 震災の復旧も未だな上、追い打ちをかけるような台風15号の被害の対応にも追われたそうです。低気圧が発達し、前線が活発化するこれからのシーズン。「行政にはせめて港前の堤防だけでも早急に直して欲しい。」そう静かに語る声からは、我慢を強いられながらも復興に全力を注ぐ現場の人々の本心が伝わってきました。

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