東京築地市場の仲卸業者等で構成するNPO法人築地魚市場銀鱗会が、5月9日に場内の東京都講堂で第9回「銀鱗」魚勉強会『鮎でイタリアン』を開催した。市場関係者・一般消費者・調理師専門学校生など250人近くが参加した。築地の荷受担当者と鮎生産者の講演に続き、魚介類を使ったイタリア料理で知られる、アクアパッツア・オーナーシェフの日高良実氏の講演と鮎を使ったイタリア料理の試食が行われた。
木村康隆氏:『鮎養殖の流通と目利き』
木村氏は東京築地市場の卸売会社・東都水産(株)のセリ人。築地市場では卸5社が鮎を扱っており、ほぼ全量がセリでなく相対で取り引きされる。サイズは1kg7〜8尾入(140〜150g/尾)は量販店の取引が多く、小さい1kg30尾入(30g/尾)は料理店の取引が多い。築地では低温売場で扱われ、室温を12〜16℃に保っている。
築地での養殖鮎の取扱数量は平成12年の1,148トンをピークに平成20年には800トンに減少。金額は平成18億円をピークに近年では12億円台を推移。出荷時期は周年であるが6〜7月が多く、冬場に減少。従来雄の生産が多かったものの平均単価が1500円/kgを割ったことから、選別に手間がかかるものの2000〜2500円/kgと単価のよい「子持ち鮎」の生産に切り替わっている。
鮎で大切なのは形・色・〆で、銀毛は駄目。餌止めした鮎は氷水で〆るが、〆が弱いと腹がブヨブヨになる。味は餌に左右され、餌が安いと駄目。和歌山産の養殖鮎は天然に近い色が出せている。川魚を食べたことのない人は多く、潜在需要はあるのに食べる機会が少ない。鮎は足が早いので扱わない仲卸業者も多い。鮎は漢字で魚偏に占うと書くが、株をやるという木村氏によると鮎の相場は日経平均株価と似た動きをし、現在の鮎の相場からすると来年には株価も持ち直すと予測した。
酒井督博氏:『紀州仕立て鮎! ここが美味い』]
続いて和歌山県鮎養殖漁協の酒井督博筆頭理事が講演。和歌山県の鮎養殖は昭和42年にスタート、昭和53年頃に天然に近い鮎の養殖技術を確立し、『天然仕立て鮎(いわゆる半天然)』の名称で出荷。「半天然」は上質な養殖鮎の代名詞となり、この養殖技術は全国各地に流布した。平成15年のJAS法の改正で養殖魚に天然の名称が使えなくなり、『紀州仕立て鮎』に名称変更。『紀州仕立て鮎』の特徴は、鰭が黄色み、縄張り争いすると鮮明になる追星があること。紀伊半島の年間降水量は3千mmで河川数が450あり、養殖生け簀では20mの地下から豊富な伏流水を汲み上げて使用。
鮎は1年魚で、河川の中流域で一晩で畳2畳分の珪藻を食べる。生け簀では自然界と似たことを再現している。鮎を育てる時に人間に例えて育てており、稚魚期は餌付けが大切で離乳期にあたる。150日で20gに成長し、250日になると成長によって選別。正月過ぎには餌を切り換え、出荷前は天然に近い餌に換えるが、メタボになるので水流を作って運動させる。「餌止め」は出荷の2日前から餌を中止することで肉質が向上する。「氷〆」は一番大切な作業で、追星がはっきりする。コンピュータ選別から箱詰めまでは1分。朝7時に〆ては出荷してその日の夜には築地に到着する。和歌山県は養殖鮎生産量は平成17年から4年連続で日本一。平成17年に消費者アンケートを実施したが、購入時に重視するポイントは、鮮度、産地、価格の順。鮎の料理方法は82%の人が、塩焼きしか知らなかった。市場流通の90%は養殖物。
今後の問題点として、出荷時にはある鮎独特の香りが時間と共に抜けてしまうことの改善だという。
日高良実氏:『イタリア料理で知る鮎の可能性』
リストランテ・アクアパッツアのオーナーシェフの日高良実氏が対談形式で講演した。日高氏はフランス料理からイタリア料理に転向し、86年から3年間、イタリア各地で修行した。最初は2つ星・3つ星の名門店で修行したが、魚介類を使った地方の郷土料理に魅せられ、シチリア島などの地方の料理店12〜13軒で修行を重ねた。日本に戻って東京からイタリア料理を本場に向けて発進するなら、和の食材を使おうと思ったという。日本の食材の中で魚なら本場に負けないということで、93年に『鮎のリゾット』を発表し、アンコウ・昆布・海苔等の和の食材をイタリア料理に取り入れてきた。日本でカルパッチョは魚介類を使うことが多いが、元々イタリア料理では牛ヒレ肉を使い、これをアレンジして広まったもの。鮎は塩焼き以外の料理法しか一般的に知られていないがマーケットを広げる上で、扱う人・売っている人は固定概念をすてるべきだと指摘した。
講演に引き続き、アクアパッツアのシェフが調理した鮎料理の試食が行われた。試食メニューは「小鮎のエスカベージュ」「鮎のリゾット」「鮎のコンフィ」の3品。「小鮎のエスカベージュ」は小鮎を小麦(セムリナ粉)を付けて揚げ、千切り野菜を添えた白ワインベースのマリネ液につけ込んだもの。2品目の「鮎のリゾット」は日高氏の魚介類を使った代表作の一つ。今回は来場者に一度に出すことから美味しく食べられるよう、リゾットをさらにオーブンで焼き上げた。リゾットは米を洗わずに炒め、水分量の多い新米よりも少ない古米の方が向く。パスタ同様に芯が残るアルデンテに仕上げるのがコツ。塩焼きにした鮎を頭・骨を取り除いて身を解し、仕上げの段階で炒め・炊いた米に先ほどの鮎を加える。今回は焼いたことで、皮目がパリットし、鮎の腹ワタが少しほろ苦く、大人向けの焼きお握りといった感じで印象深かい。
3品目は「鮎のコンフィ」。コンフィはイタリアの古くから調理法で低温の油で時間をかけて煮る手法で、鴨の調理法を鮎に応用したもの。90℃の油で4〜5時間沸騰させずに加熱、骨まで柔らかく煮る。最後に皮をパリッと焼き上げ、コクを補うためにラルド(豚の脂の薄い膜)をのせて完成。ソースはキュウリとオリーブオイルをミキサーにかけてピューレ状にして塩胡椒で味を調え、初夏らしい彩りと味だ。鮎の頭〜骨まであっさり食べられ、添えられたハーブも食欲をそそる。久しぶりに魚を食べて感激し、サッポロビールの協賛でビールとイタリアワインも振る舞われ、料理ともに満足の1日であった。
アクアパッツアHP:http://www.acquapazza.co.jp/