築地市場の仲卸業者等からなるNPO法人築地魚市場銀鱗会が第8回銀鱗魚勉強会『紀州勝浦港生まぐろ』を3月7日(土)に築地市場内の東京都講堂で開催し、一般消費者100人を含め業界関係者など合計230〜240人が参加した。
最初に築地荷受築地魚市場(株)のマグロ部長・森若良三氏がマグロの分類〜漁法〜漁港〜漁獲時期などのマグロの一般的なガイダンスを行ない、最近増えている養殖物(蓄養物)は天然物と違って品質が均一なので目利きがいらないと説明した。
続いて和歌山県串本のマグロ漁師、安崎丸の寺本正勝氏(右の写真)がマグロ漁の実体験に基づき話した。寺本氏は昭和13年生まれで20歳にマグロ漁師になり、今までにマグロを2千本以上釣りあげた。寺本氏は伝説のマグロ漁師として知られ、昨年夏には寺本氏を題材にしたテレビの特番も放送された。かつては大船団を組んで日本中を周って各地に小型延縄漁を広めてきた。延縄漁の餌には漁場近くで釣った活きたサバやスルメを使うこと、細い糸でないとマグロが釣れないと高価なナイロンテグスを延縄漁に導入したこと、マグロの鮮度の保存方法として「神経抜き」を考案したのも全て寺本氏のアイデア。「漁師として自分だけ良くなるのは駄目、みんなが良くなるように」が寺本氏の信条で、長年培ってきたこれらのノウハウも漁師仲間に全て教え、船団を組んだ漁師仲間が各地に戻って指導して広まった。
昨年、原子力潜水艦と小型鮪延縄船の衝突事故のあった千葉の勝浦もその一つ。10年前から病気をわずらって船に乗っていないが、今でも寺本氏を慕う漁師は多い。北海道のマグロ漁師は寒い土地柄で、鮮度保持のために氷を積む習慣がなかった。
寺本氏自身は昔は水氷を使わずに全量氷で鮮度保持し、マグロは腹が大事なので腹にギッチリ氷を詰め、先輩に習い1日にバケツ1パイ分の氷が解けるのを目安とした。解けた分をまた氷を腹に詰め直したが温度管理が難しく、海水を冷却してマグロを付ける方法に変え鮮度面でアップした。北海道では20隻で船団を組み操業し、氷を使うようになって5年位で値段がでるようになった。道南・戸井も寺本氏が指導し、津軽海峡は150〜200kgの本マグロが1日5〜6本も揚がった。縄を入れてから揚げるまで短く、戸井は日本一のマグロだ。一方、大間では釣った鮪を船の脇に横付けして港に帰ってくることから、釣ったマグロの温度管理をしていないことから感心できない。自分が何を残してきたかを考えると、公平に漁場を利用する「輪番制」が北海道全域で根付いていることだ。
引き続き勝浦魚商協同組合の大井専務が紀州勝浦の生マグロの魅力について講演(後日紹介)が行われ、町のPRとして熊野比丘尼(くまのびくに)が曼陀羅の絵解きを紹介した。司会をしたマグロ仲卸「樋長」の飯田氏によると、「築地の大物の仲卸業者はビンナガを扱わないが、思ったより色がしっかりしている。ビンナガは身が柔らかい分、骨と皮が固くて30kgのビンナガでも250kgのクロマグロの骨の硬さに相当する。また、キハダはこの時期は脂があるので本マグロの代わりにも使えると」いう。最後に勝浦漁協・丸山一郎参事(上の写真)が「キハダ・ビンナガを実際に食べてもらうと、今までの認識と数段違うはず。消費者の方は勝浦産のものが売ってたら買って欲しい。卸・仲卸の方は取り扱って欲しい」と挨拶。食べ比べ用の紀州勝浦産生鮮マグロ3種(メバチ・キハダ・ビンナガ)の寿司は旭寿司(本店:東京都世田谷区下高井戸)の職人が2,400貫も用意したが予定の午後3時前には早くもなくなった。