海外の日本の観光ガイドブックでは、日本の観光地ベストテンで築地市場が京都の次いでランクインされているそうである。バブル期以降入荷数量・取扱金額とも年々減っているものの、今でも世界最大の魚市場「フィッシュマーケット」が築地市場なのであろう。
そういえば昨年3月に某漁協の人を連れて、荷受会社の担当者に頼んで築地見学をした時も、マグロのセリ場には早朝5時過ぎにも係わらずアジア系・欧米系等の外国人観光客が100人以上来ていて驚いたことがある。生鮮マグロの低温売場はというと、シャッターで外気を遮断して温度管理がされており、一般の人の入場が規制されているにも関わらず、外国人観光客が自由に中に入ってきていた。冷凍マグロ売場も同様でマグロに手でベタベタ触ったり、セリ中もフラッシュお構いなしで写真を撮っていたように記憶する。その時も外国人観光客がマグロにハグして困るような話が担当者からでていた。
一年で一番稼ぎ時となる年末から最近までの1ヶ月間、業務に支障が出るとし観光客のマグロのセリの見学を禁止し、連日、マスコミに取り上げられ話題となった。1本百万円以上するマグロを床に落としてキズ付けてもその観光客に請求できなかったという話もあるようだし、繁茂期は禁止にするのも仕方がないのだろう。旅行会社等の要請もあって今週月曜からマグロのセリ場の見学を再開したが、警備員を増やしたり、英語・ロシア語・中国語・ハングル等のパンフレットを作って配布した成果もあり、概ねマナーは向上したようである。外国人に日本の文化を知ってもらう良い機会だと思うし、日本人でも築地のセリを見学したことのある人は少ないのではないだろうか。良い方向に定着すればと思う。
さて、平日の昼時となると築地市場内の人気のある寿司屋はというと、30分待ち当たり前の長蛇の列で近隣のサラリーマン・OLや外国人の姿も珍しくない。土曜だと朝8時台からこの光景が昼間で続く。場外市場の寿司屋は24時間営業のチェーン店が増え、新規参入する店も多い。銀座まで徒歩10分と近く、銀座で飲んだ後に深夜にタクシーで築地の寿司屋まで食べに行く人もいるという。テレビのグルメ番組や雑誌でも飽きるほど築地の特集をやっているし、築地市場が2014年に2km先にある豊洲新市場に移転した後も、場外にある飲食店や小売店は今の場所に残るわけなので、買出人だけでなく一般消費者も取り込んで顧客にしないと生き残っていけないのであろう。
また、近所の大手食品スーパーでは「築地直送」のシールを鮮魚や加工品に張って売っている。加工品を作った業者は裏面のシールを見ると茨城県だったりする。また、上野にある某タコ焼き屋さんは使用のタコは「築地直送」とうたっている。もちろん築地ではタコは獲れないし、産地は国産ではなく西アフリカ産であろう、ただ築地を経由したことでしかない。宮城県のどっかの寿司屋で「築地直送」を見たときはガッカリした。築地で「セリ」が行われているのは品質格差が大きく、品質を見極める「目利き」の能力が特に重要な、マグロ・エビ・ウニ・活魚程度である。大半は事前に値決めする「相対売り」で「セリ」を通さずに値決めされている。「築地」に集まる魚は良い物も集まるが全て上物とは限らず、「築地直送」という言葉はただ築地を経由した位の意味でしかない。「築地直送」といっても、産地に漁船が水揚げしたものを産地仲買業者が出荷したものが築地市場に入荷するのであって、ものによっては複数の市場を経由する場合もある。一般消費者は新鮮な魚を求めて築地に食べ・買いに行くのであって、築地に一種のブランドイメージがあるかもしれない。「築地直送」というと一般消費者は新鮮に感じるかもしれないが、ただ築地を通過した位の意味合いでしかないと思う。豊洲新市場も土壌汚染問題がクリアされ、2014年、遅くても2015年頃に移転した場合も、「築地直送」という言葉は残るのだろうか。
東京都中央卸売市場のプレスリリース『マグロ卸売場見学の再開について』