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最近の水産の話題はこれ! 随時更新
vol.653

パネルディスカッション

 NHKエグゼクティヴアナウンサー国井雅比呂氏をコーディネーターに迎え、パネルディスカッションが行われた。産地側は岡山県の日生(ひなせ)町漁協の本田組合長が体調不良で、岡山県水産課の鳥居正也氏が急遽報告を行なった。日生漁協は20数年前から自らアマモ場の再生を行ない、現在の活動の担い手は青壮年部に移っている。主に牡蠣養殖を行っている漁師で後継者は多い。

 市場・流通を代表して東京魚市場卸協同組合の伊藤宏之理事長が報告を行った。築地の仲卸「美濃桂」に昭和36年に入って半世紀経つが仲卸は1300店舗あったのが800を切った。「美濃桂」の顧客は当時は赤坂〜柳橋の料亭が中心で、値段のことは言わず、品質にこだわった。マタガイ(マダカアワビ)は千葉の大原から40キロ樽で市場に届き、1個1kgを越える大マタは花火の季節に塩蒸しに欠かせず、料亭は一樽づつ買った。現在、そのようなマタガイ・大マタはなく600〜700gのメガイアワビもなくなっており、大きなアワビを輸出向けの乾鮑を作ったのが原因としている。

 東京新橋にある寿司屋「第三春美鮨」の長山一夫氏は江戸前鮨「仕入覚え書き」などの著作でも有名。長山氏は築地から店に戻ると毎日1時間20〜30分かけて魚の仕入れを整理し、新聞紙大の1枚紙に産地や魚の〆方等細かく書いて店内張り出すほか、小さく印刷してお客さんにも配るという。「開幸橋を渡ると嘘を言ってもいい」という言葉が築地にはあり、築地に通い始めたころ、散々仲卸に騙されたという。仕入れる仲卸を替えて話を聴いてみても、仲卸や荷受けも産地の状況を詳しく知らない。淡路島南端の沼島の松栄丸水産が出荷した黄アジに魅せられてから、長山氏は産地を廻るようになった。沼島のマアジは黄アジが獲れなくなっており、黄アジと黒アジの中間種が多くなっている。他の魚も旬がどんどん変わってきて、スミイカは一年中獲れ、関東では戻りガツオは昔使わなかったが、戻りの方が脂があって美味しいという人が増えている。鮑の良い物が少なくなったのは中国が乾鮑を買い占めたのが原因。江戸前の魚はアカガイやハマグリ等があるが残ったのはシャコと穴子。シャコは横浜の小柴が有名だが、不漁のために5年前から2010年まで操業停止なってしまった。残る穴子は生産量と流通量とで倍以上の開きがあり実態に合わない。仲買と勝負するため産地を廻って勉強し、25年前から店内で産地の表示をするようになったので、産地表示のハシリ。アワビも良いものが少なくなったのは、中国が乾鮑を買い占めによる。最近、シャコや穴子にしても油臭い魚が増えており、佐島のヒラメや尾鷲の冬のヒラスズキもそうだが、魚全体が劣化している。お客さんは魚の品質をわかっていないと嘆く。長山氏は最後に最近の食品偽装や産地偽装などに触れ、「昔は仲買にさんざん騙された。プロはプロを騙すことはあっても、プロが消費者を騙してはいけない」と締めくくった。

 消費者の立場からウーマンズフォーラム魚の白石ユリ子代表は、「昭和8年生まれの後期高齢者だが虫歯は一本もない」と自己紹介し、都内の小学生を中心にした魚食普及活動をはじめ、ウーマンズフォーラム魚の活動を紹介。

続いて、ネットで有名な市場魚貝類図鑑主催島根県水産アドバイザーの「ぼうずコンニャク」氏は、「魚に係わって50年、自分の子供に1400種近くの魚を食べさせたらすっかり魚が嫌いになった。サンプルが送られてきても自分1人で食べている」と自己紹介。より多様な生物を食べる方がより自然にやさしいと考えるようになり、定置網でいらない魚を貰ってきて、不味いものでも食べようと思うようになったという。郷土料理も残すべきで、料理の多様性も重要だと指摘した。

 総合討論で長山氏は「中国の問題を始め、食の安全が叫ばれている中、漁師の収入は少なく辛いので、漁師の収入が増えるように考えるべき。海の環境保全は漁師がやってきたので、漁師を大切にすべき」と意見を述べた。また、小柴のシャコがなくなるとシャコ爪が店で出せなくなり、ハゼの子や博多の海胆も同様。

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