海の幸に感謝する会と(社)大日本水産会の主催で「食料安全保障と持続的漁業に貢献シンポジウム」を、東京都港区六本木にある全日本海員組合本部の地下大会議室で10月20日に開催し、約150人が参加した。海の幸に感謝する会の米澤邦男会長が冒頭の挨拶の中で、先週、某環境団体が開いたシンポジウムに触れ、「予算200億円もあるお金持ち団体は立派な会場でシンポジウムを開いたが、我々はお金が泣く直前まで会場を決まらずようやくここをお借りすることができた。投資ファウンドがガス抜きの為にその団体に献金している」と批判し、米澤節で始まった。
FAO(国連食糧農業機関)の水産養殖局長の野村一郎氏を講師に迎え、『食糧安全保障のための漁業の貢献・期待される日本の役割』のテーマで講演を行った。FAOは国連専門機関で職員4千名の国連最大の機関で水産養殖局は日本人が4人おり、FAOは受験問題にも出ると紹介。ヨーロッパの漁業者も今後魚がいなくなると危機感を持っている。1億4千400万トンの世界の漁業生産のうち、食用向けは1億1千万トン。全体の47%は養殖が占めており、近年は50%を越えていると思われる。漁業者はアジアが4400万人で地域別では最多、中国は1300万人。漁船隻数は210万隻で、うち90%は小型船で、アジアがその70%を占める。漁業生産の37%は貿易で取り引きされている。過剰漁獲種は全体の25%、カツオマグロは30%、サメは55%、ストラドリングストックは65%。
漁業と環境を巡る面では生態学的アプローチも重要で、餌生物も考慮する必要があると指摘。生物に加え、漁業者の経済的な面も考慮する必要があり、漁業者も議論に加えて、お互いに納得することが大切とし、この成功事例としてノルウェーやアイスランドを挙げた。近年、サメや海鳥や深海漁業による深海性サンゴの破壊等、環境問題とのバランスも問われる時代になっており、漁業とせめぎ合いになっているという。MPAs=禁漁区(海洋保護区)が昨今話題に上るが、FAOとして保護のための保護は避けたいと考えており、公海流し網の禁止のような事態は避けたい。CITES(ワシントン条約)で昔は漁業に関係する種でもそれに関係なく投票で決めていたが、最近は漁業に関係するような種はFAOの専門家の意見を考慮するようになっているのでだいぶ健全化している。社会的公正に関しては、小規模漁業も公正にアクセスできることが必要だ。持続的に漁業行う上での動機付けの仕組みとして、排他性・永続性・保障・委譲可能制があり、利害関係者が納得することが大切。サメに関してはヒレだけ切って持ち帰っていたが、全量持ち帰って使うようにかわり、この問題は決着した。今後注意する点としては、「魚を殺すのが残酷だ」、「魚を殺すときに痛みを伴わないようにすべき」、「魚を養殖する空間が狭くて可哀想」といった『魚の福祉問題』が環境団体によって問題視される可能性がある。
FAO(国連食糧農業機関)(社)大日本水産会の常務理事の斎藤壽典氏が、「MELジャパンの目指すもの」というテーマで講演を引き続き行った。まず海外で水産エコラベルとして普及しているMSCが、日本国内でも京都府底びき網連合会や亀和商店などが導入したことから危機感を持ち、日本版水産エコラベルを業界主導で立ち上げた経緯を説明。MELジャパンの審査機関は(社)日本水産資源保護協会で、認証に際して助言や代行業務を行う業種別団体は(社)漁港漁場漁村技術研究所という体制。日本海かにかご協会がベニズワイガニを、鳥取県沖合底曳網漁業協会がズワイガニやアカガレイ等を、由比港漁業協同組合と大井川漁業協同組合がサクラエビをMELジャパンに申請中であることを紹介。
FAO(国連食糧農業機関)(社)後半は梅崎義人水産ジャーナリストの会会長がコーディネーターを務め、「日本人にとって漁業とは」をテーマに討論が行われた。生産者代表の明神照男高知県かつお漁協組合長が話題提供を行った。自組合船は土佐沖でカツオを10年獲っていないという。田舎ではなんとか自給自足でき、嗜好品として魚を獲って帰って来た。もうかる漁業として、加工や産直をやり、船の周年操業もやった。漁師が漁をやるだけでは食べていけないので、漁師が釣って・漁師が焼いた「藁焼きタタキ」を作って売ってきた。燃油対策については地域の視点がなく、日本の漁業を今後どうするかという視点もないという。現行のオリンピック方式を「早く獲った者勝ちの制度」でいい表し、オリンピック方式を続けると8割の日本の漁業は駄目になると警鐘を鳴らす。漁場が年々遠くなっており、一昼夜走らないと漁場に行けず、油を喰う。15ノットを10ノットに落とせば3分の1の油で済むので、今後はスローな漁業を目指すべきだという。
流通代表の鈴木敬一築地魚市場社長は、市場経由率が年々下がっており、昔は川上・川中・川下の半分は儲かっていたが誰も儲からなくなったという。アラスカのイクラはロシアに流れ、スリミはアメリカやヨーロッパに流れ、日本に入らなくなった。世界人口は紀元0年は2億人、1900年は20億人、現在は66〜67億人、2050年には90億人に達する。食料とエネルギーは自国で確保すべき。米はある。野菜はゴルフ場をつぶして畑にすればよいと提言。魚はというと魚価安で儲からなく、資源は逼迫しており、就業者は減って老齢化して設備は古い三重苦・四重苦だ。消費者に魚の本当の価値を認めさせて、魚価を上げる努力が必要だ。