東京霞ヶ関にある農林水産政策研究所で8月19日に、立命館大学の大西学氏を講師に招き、譲渡可能漁獲割当制度(ITQ)の先進事例として有名なニュージーランド(NZ)の実情についてのセミナーを開催した。我が国でもITQ制度の導入については、水産庁主催の次回の「TAC等有識者懇談会」でも議題にあげられていることから、最近、注目度が高く、行政担当者・研究者・業界関係者など40名ほどが参加した。セミナーの要旨は以下のようなもの。
NZでも算入自由のTAC制度を実施していたが、資源状態に見合わない過剰な設備投資が進み、操業効率性が悪化したことから、ITQ制度を1986年10月に導入し、沖合漁業は1983年10月に先行導入した。
ITQの目的は、TAC制度同様に漁獲上限を設定することで過剰漁獲へ対応して持続的に資源利用を確保すること、制限された漁獲量を個別漁業者に配分することにより早いもの競争を解消して個人の効率性を向上させることを図ること、個別配分された割当を自由に取引することで水産業界全体の効率性を向上させることなどである。
ITQ制度下の魚種は97魚種、629ストック(=魚種毎の系統群)。ITQの割当総価値は38億NZ$(3200億円)。商業漁船数は1316隻、仲買許可数229、水産関係の直接雇用者数は加工業も含め、7,155人。NZでは漁業者は仲買を通さないと陸揚げできない。NZの管理水域は10水域に区分され、魚種により水域を分離・合併し、ストック毎にITQを管理。NZの水産物は漁獲された9割が輸出。漁獲割当は当初、固定重量制(1隻あたり100トンetc.)だったが資源の減少分を政府が買い上げていたが、資源変動のリスク負担が大きいので変動制(1隻あたりTACの0.1% etc.)に移行した。
ITQの取引方法は「漁獲割当」と「ACE(年間漁獲権)」からなる。前者は田圃の所有する権利(地主)、後者は農業をする権利(小作人)にたとえられる。「漁獲割当」取引量は過去3回大きな山があり、3年間ですべて入れ替わった。2002年以降、漁獲割当量(TACC)を、ACE取引量が2割上回っている。漁獲割当の初期配分時、受給資格条件として1万$以上の漁業収入があるものという制約をつけたため、先住民のマオリ族が排除されたことから裁判になり負けたことから、漁獲割当の20%はマオリ族に配分することとなった。
【報告の仕組み】
漁獲報告は、1.漁獲割当を持っている人、2.獲った人(だれの割当か、どの仲買に売ったか)、3.仲買(だれから買ったか)の三者から報告を受け、二重売りがないかチェック。この報告方法は漁業者の負担が大きく、枠のない魚種については枠を持っている人から借りる必要がある。
NZの漁獲量の内訳は、バラクーダ、ホキ、ニュージーランドマダイ、オレンジラフィー、ニュージーランドスルメイカ、ロックロブスター、アワビ等の10魚種で大半を占める。
【IQT制度の問題点】
NZではストック毎にみると1〜2割が超過漁獲している。海上投棄は3年間で2回以上すると水産業から退出させられることから、リスク分散のため、割当保有部門と漁獲部門を切り離し、水産業にける「地主(ホワイトカラー)」と「小作人」化がより進んだ。船は大型化され効率はアップしたものの、割当の独占規定により1魚種につき25%までという制約があるものの、レント(ACEの取引量)は大手10社で8割の割当を保有するなど寡占化の問題もある。
参考:ITQ制度導入後のニュージーランド漁業界の変遷(PDF)