トピックス
令和5年8月の海況について
黒潮大蛇行は8月も継続した。黒潮続流は8月下旬に北上部が一時的に切離されて暖水渦を形成したが、再結合して北偏が続き、三陸沖は高水温が続いた。日本海も台風7号の通過により一時的に降温したが、再び昇温して高水温状態が続いた。
黒潮域
・大蛇行は8月も継続し、黒潮内側域の冷水渦は東進してやや縮小した（図1-①）。熊野灘～遠州灘では離岸が進み、浅いV字型流路になった。しかし、9月上旬現在は東進が解消して西偏傾向となった。
・黒潮流路周辺の海面水温は、九州～四国沖では台風が通過した影響で降温して29℃、潮岬沖～房総半島沖では28～29℃で停滞した。
・沖縄～小笠原～南鳥島周辺（図1-②）や伊豆諸島南西沖（図1-①）の海面水温は、8月中旬の台風7号をはじめ台風が相次いだ影響で近年より１℃前後低めであった。また、紀伊半島沖（図1-A）も台風の影響に加えて黒潮内側域の冷水の影響で近年より1℃前後低めであった。
・一方、遠州灘～関東沿岸（図1-③）や関東南東沖（図1-④）の海面水温は、台風の影響が小さく、風が弱く日射量が多かったため、近年より1℃前後高めであった。
親潮域・混合水域
・黒潮続流は、伊豆諸島付近の蛇行が北上し、犬吠埼沖で発達して離岸が進んだ。8月中旬以降は複雑に流路が変化し、続流南下部の冷水渦Bと結合して著しく離岸したが、39～40°Nに達する著しい北偏が継続した。
・8月下旬には続流北上部が切離されて、暖水渦になったが、9月上旬に再結合した。
・黒潮続流北上部からは暖水が常磐沿岸（⑤）や峰の北東方向（⑥）に波及し、海面水温は近年より3～5℃高めになり、海洋熱波の状態が続いた
・釧路南東沖の暖水渦（図1-C）は停滞し、黒潮続流の峰から暖水が供給されたため、暖水渦の北半分を中心に海面水温が近年より4～8℃高めの海域がみられた。また、道東海域（図1-⑬）も8月下旬の近年偏差は近年最高の+4.3℃を記録した。なお、これまでの最高は、JAIFC EYE第319号で紹介した6月下旬の+3.3℃であった。
・津軽海峡では津軽暖流系水の暖水渦（図1-E）が停滞した。
・親潮面積は平年（1993～2017年）よりかなり狭い状態が続き、7月に引き続き親潮第1分枝（図1-⑧）は根室半島沖に停滞し、第2分枝（図1-⑦）も黒潮続流から波及した暖水に阻まれて41°30’N・148°30’E付近に後退した。
・道東沿岸～襟裳岬の海面水温は、周囲よりは低めであったが、近年比で2～4℃高めであった。
・常磐～三陸はるか沖（図1-D）の海面水温は、昇温が進んで近年より低めの海域は消滅した。
東シナ海
・台風が相次いで通過した影響で、海面水温は8月上～中旬は低めの海域が広がったが、下旬以降は日射量が多く風が弱かったため低めの海域は縮小した。
日本海
・対馬暖流の勢力は平年よりかなり強めの状態が続いた。その主な流路は、7月とほぼ同様に大和堆付近を通過して佐渡北沖でS字状に蛇行した。
・8月中旬に台風7号が通過した影響で、海面水温は沿海州沖（図1-⑫）では一時的に近年より低めになったが、山陰沖（図1-⑪）は影響が小さく近年より低めの海域はみられなかった。
・8月中旬以降は日射量が多く気温が高い状態が続き、沿海州沖（図1-⑫）の海面水温が低めの海域は消滅し、山陰～東北沖（⑪）を中心に近年より2℃以上高めの海域が広がり、北陸や東北の一部では一時的に30℃以上の海域もみられた。
オホーツク海
・海面水温は8月下旬に昇温が進んで広範囲で高めとなった。この原因として、対馬暖流の勢力が強かった影響も考えられるが、宗谷暖流の及ぶ範囲は沿岸に留まっており、主に気温が高く、風が弱かった影響によると思われる 。
今後の見通し
・黒潮大蛇行の解消時にみられる蛇行部の東進は9月上旬現在にはみられず、西偏傾向になっているため、大蛇行は少なくとも年内は継続する見込みである。
・黒潮域の海面水温は、台風による降温は徐々に解消して9月上旬は昇温傾向であった。また、気象庁の季節予報では、気温は全国的に高めとされているため、降温期に入っているが海面水温の降温は弱く、今後1ヵ月は近年よりやや高めになる見込みである。
・親潮域・混合域の海面水温は、黒潮続流の北上部または黒潮続流北上部から切離された大型の暖水渦が停滞する影響に、気温の影響も加わり、今後1ヵ月は近年より4℃以上高めの海域が広がる見込みである。
・日本海の海面水温は、対馬暖流が平年（1993～2007年）よりかなり強い状態であり、気温の影響も加わり、今後1ヵ月は近年より2～3℃高めの海域が広がると見込まれる。
（海洋事業部）
vol.1234