9月は台風が相次いで通過し、本州南方や東シナ海および日本海で降温が進んだ。一方、潮域・混合水域は暖水波及が続いて昇温もみられ、高水温が継続した。
・大蛇行は9月も継続し、大王埼沖の屈曲に加え室戸岬沖でも弱い屈曲を生じて逆Ω型の流路(図1-A)を呈し、29~30°N付近まで南下が進んだ。
・黒潮流軸は、四国沖では離岸が弱まり(図1-B)、遠州灘では引き続き接岸した(図1-①)。伊豆諸島付近では三宅島~八丈島付近を通過し、房総半島沖に接岸した。
・黒潮流軸の海面水温は、九州~四国沖~潮岬沖は28~29℃、伊豆諸島北部~房総半島沖は28℃に降温した。
・四国沖の海面水温は、黒潮流軸が接岸し、日射量が多かったが、台風通過の影響で近年(2011~2020年)並~やや高めにとどまった。
・熊野灘~遠州灘沖の海面水温(図1-①)は、黒潮流軸の接岸により近年より1~2℃前後高めの状態が続いた。
・沖縄東沖や小笠原周辺(図1-②)および関東東海沖(図1-②)の海面水温は、日射量が多く気温も高めであったが、台風通過の影響で近年より高めの海域は縮小した。石垣島周辺や南鳥島付近の海面水温(図1-③)は、台風が停滞したため、近年よりやや低めであった。
・沖縄東沖や小笠原(図1-②)、南鳥島付近(図1-③)の海面水温は、台風の通過や停滞により、前年より1℃弱低めであった。
・黒潮流軸周辺や関東東海沖の、海面水温(図1-⑬)は、前年より台風の影響が小さく前年より1℃前後高めであった。
・黒潮続流流軸は、犬吠埼を離岸してから北東進し、前月よりやや北上した。
・8月にみられた黒潮続流蛇行部の峰(図1-C)は一旦切り離されて西進し、145°E付近で流軸に接合(図1-D)した。
・常磐~三陸沿岸(図1-④)や三陸北部沖の一部の海面水温は(図1-⑤)、9月中~下旬に相次いで通過した台風や下層の冷水の影響で、近年よりやや低めであった。
・一方、三陸~道東沖(図1-⑥)や道東のはるか沖の海面水温(図1-⑦)は、黒潮続流域からの暖水波及が継続し、近年より2~3℃高めの状態が続いた。
・津軽暖流域(図1-E)、三陸沖(図1-F)及び道東沖(図1-G)では暖水渦が発達し始めた。
・根室半島沖(図1-⑧)には10℃以下の親潮系冷水が南下したが、親潮第1分枝は暖水波及の影響で根室半島沖に停滞し、第2分枝も暖水波及の影響で42°30′N・150°E付近に後退して親潮の面積は平年(1993~2017年)よりかなり小さめの状態が続いている。
・沿岸の一部(図1-④)や根室半島沖(図1-⑧)の海面水温は、下層の冷水や低気圧の停滞の影響で前年より低めであった。
・一方、沖合(図1-⑥、⑦)の海面水温は、暖水波及の影響で低気圧や前線の影響が大きかった前年より大幅に高く、3~5℃高めの海域が広がった。
・9月上~中旬の海面水温は、台風の影響で北部を中心に2℃以上低めの海域が広がったが、下旬は日射量が多かったため、南部を中心に低めの海域が縮小した。
・対馬暖流は山陰西部沖で蛇行し(図1-⑪)、北陸でも蛇行を繰り返し(図1-⑫)、勢力は平年より強めであった。
・前月は高めであった日本海中部~北部(図1-⑫)の海面水温は、9月上旬に西部~北西部を台風が通過した影響で1℃前後低めに転じた。
・山陰~北陸沿岸の海面水温は、9月中旬に台風が通過したが、対馬暖流の影響が強くやや高めであった。一方、山陰西部沖(図1-⑪)の海面水温は、対馬暖流の蛇行の影響で1℃前後高めであった。
・東朝鮮暖流域北部の海面水温(図1-⑩)は、暖水の北上により1℃前後高めであった。
・8月の海面水温は前年に比べて高めであったが、北部は台風の影響により9月には大幅に降温して1~2℃に低めに転じた。
・三陸・道東海域の海面水温は6月下旬以降、沿岸から沖合まで近年より2~5℃高めになり、いわゆる海洋熱波の状態が続いている。
・各海域ともに海面水温は7月に高偏差の状態になり、特に道東海域では7月中旬に近年最高の+2.9℃(図3)を記録した。
・8月に台風の影響や親潮系水が一時的に三陸沖に一時的に南下したため、海面水温の近年偏差は縮小し、三陸は近年より低め(図3)になった。
・しかし、9月に黒潮続流域からの暖水波及が再び強まり、各海域ともに海面水温が近年より低めの海域が縮小した(図2)。
・特に9月下旬以降は、145°Eより沖合で黒潮続流域から暖水が北上し、10月上旬には三陸のはるか沖合や道東東沖海域(図2₋②)では海面水温が近年より5~6℃高めの海域が広がった。このため、各海域ともに近年偏差は上昇し、道東海域では7月中旬に記録した近年最高に匹敵する+2.8℃となった。
・9月上旬の下層水温観測では、親潮由来と考えられる低温低塩分水が襟裳岬付近から三陸北部に南下する様子がみられ、沖合の50m以深にも低温低塩分水がみられた。しかし、9月下旬の三陸沿岸の下層観測では親潮由来と考えられる水は少なく、黒潮由来と考えられる高温高塩分水が優勢であった。
・10月中旬現在における三陸~道東海域では、暖水の北上は弱まってきているが、依然として暖水の影響が強く、当面は冷水が南下しにくい海況が続くと思われる。
(海洋事業部)