1)全国の水揚げ動向
生鮮スルメイカの水揚げ動向は、冬生まれ群の資源量の低下により2016年以降は低調に推移しており、2021年も2013〜2015年の9〜11月の秋季のような水揚量の大幅な増加はなかった。
2021年10月の生鮮スルメイカの月別水揚量は2.6千トンで、前年同月の1/2、2013〜2020年10月平均9.5千トンの1/4であり(図1)、2013年以降最低であった。
2021年1〜10月の生鮮スルメイカの月別累計水揚量は1.2万トンで、前年の1/2、2013〜2020年の平均3.8万トンの1/3であった(図2)。
2)各地の漁場形成の特徴
@日本海
日本海で操業する中型いか釣り船(船凍)は、夏場の高水温(平年差プラス4〜5℃)の影響で、群が一気に沖合を北上し、日本海の大和堆(図3のA海域)では、7月以降、長期間好漁が続いた。10月上旬には大型低気圧の通過により、海面水温が平年並みに低下した。このため、大和堆に滞留していた群が10月中旬には隠岐北西沖(図3のB海域)に南下した。隠岐諸島(図3のC海域)〜九州北部(図3のD海域)にも漁場が形成され、10月上旬には小型いか釣り(生鮮)でも一時的に好漁がみられた。
隠岐北西沖では産卵後の身の薄い「皮イカ」が多く混じったことから、10月末には一部の船は大和堆で再び操業した。なお、皮イカは1隻1航海当たり8千〜1万箱の水揚げのうち、70〜80箱であった。皮イカの価格は1箱(8kg入)2,500円で、通常のブロック品のほぼ半値であった。
なお、日本海の最北部の稚内では、例年、8〜10月には小型いか釣り主体に2千トン前後の水揚げがある。しかし、今期は10月末までに沖合底曳網による少量の漁獲があったのみで、小型いか釣り船の漁獲は皆無であった。11月に入ると6〜7隻の小型いか釣り船がようやく操業を開始し、1日当たり千数百箱の水揚げが続いている。
A東シナ海
東シナ海の五島沖(西沖、図3のE海域)では、10月下旬後半〜11月上旬前半にまき網漁により、スルメイカの大型個体(1尾約430g、1箱21.5kg・50尾入)が、多い日で60トン、累計では約200トン漁獲され、価格は6,000〜6,600円/箱であった。この大型スルメイカは、産卵のため日本海を経て東シナ海五島沖(西沖)まで南下したものと推定される。
Bオホーツク海〜根室海峡・道南
この海域(特に羅臼)では、過去には9〜11月の短期間に3万トンを超える豊漁年もあったが、近年は数百トン〜数千トンの漁獲に留まっている(図4)。今期は10月末までの羅臼・網走・紋別の3港合計で約1千トンの漁獲で、2019〜2020年をやや上回る程度であった。なお、10月下旬には道南の苫小牧〜室蘭〜噴火湾でも一時的に釣りによる好漁がみられた。
C三陸
2021年1〜10月の生鮮スルメイカの累計漁獲量は前年を大きく下回った(図5)。釣り・定置網・まき網によるスルメイカ漁は低調で、沖合底曳網(八戸・宮古・石巻:図3のF)によるスルメイカ漁は前年を下回ったものの、他の漁業と比べると比較的好調であった。石巻では9月は40〜50トン/日の水揚げがあったが、10月になると20トン/日以下に低下した。なお、10月にはスルメイカ主体の漁から、例年どおり、ヤリイカ主体の漁獲に切り替わった。沖合底曳網によるスルメイカの魚体は、約200g/尾で発泡ケース30尾入に相当する。
今期の1〜10月の三陸一帯の累計水揚量は3.7千トンで、前年の1/3であった。
2021年10月の生鮮スルメイカの平均価格は595円/kgであった。スルメイカの不漁が続くものの、マツイカを含む冷凍スルメイカ類の輸入量(表1)が国内の漁獲量の2倍近くもあり、加工原料や解凍品・ボイル品として生食用等にも仕向けられている。このようなこともあり、生鮮スルメイカの月別平均価格は7月以降低下しており、概ね前年並みとなっている(図6)。
2021年の10月の主要港における冷凍スルメイカの水揚量(図7)は、1.3千トンで、前年同月の2割増であったものの、9月の2千トンから低下し、2013〜2020年平均3.3千トンの4割に留まった。
2021年6〜10月の主要港における冷凍スルメイカの累計水揚量(図8)は4.6千トンと、2019年・2020年同期を上回ったが、2013〜2020年同期の平均9.7千トンの3割に留まった。
主要港における冷凍スルメイカの月別平均価格(図9)は、現在は昨年同期並みの600〜700円/kgで推移しており、生鮮スルメイカとほぼ同様の値動きであった。
生鮮・冷凍ともにスルメイカ漁は漁期終盤であり、過去最低であった昨年を下回る漁獲水準である。10月現在、日本海の中型いか釣り船(船凍)の漁況は群が薄く7〜9月のような勢いはない。年明けには中型いか釣り船の一部は、例年どおり三陸沖でアカイカ漁に切り替える。今後のアカイカ漁に期待したい。