主要港における生鮮スルメイカの8月の水揚量は1,172トンで、7月の1,367トンから14%下回った。また、2013〜2020年の8月平均の5,698トンの2割程度と少なく、2013年以降で最低であった(図1)。日本海・三陸・道東の沿岸〜沖合域では7月中旬〜8月上旬の海面水温の平年差が4〜5℃高い状態が続き、小型いか釣りの漁獲が全般的に不振であった。特に日本海では新潟以北の1〜8月累計漁獲量が過去5年平均比で31%・前年比46%と極めて低調で、金沢・境港・浜田よりも減少が目立った(表1)。北海道西の小樽〜檜山管内では9月下旬でも30尾入サイズ(200g級)以下の小型サイズが漁獲の大半であったが、20尾入サイズ(300g級)や25尾入サイズ(240g級)もようやく出始めた。
三陸・下北半島・道東では夏季に小型いか釣り船が、潜行群を対象に夜いか釣り漁から昼いか釣り漁に切り替わる。根室・花咲では8月下旬に90隻前後/日が操業し、30〜60トン/日とまとまり活況を呈した。しかし、9月に入ると花咲の水揚量が減少し始めた。羅臼でも例年通り8月末から釣りと定置網による漁獲がみられた。
例年、7月下旬〜9月頃に八戸沖で操業するまき網によるスルメイカ漁は、過去5年間に年間600〜2,400トンの漁獲があり、今期も2千トンのまき網での漁獲枠が設定された。しかし、8月31日現在でわずか81トンしか漁獲しておらず、まき網漁の不振も、水揚量の減少に大きく影響している。2013〜2015年は、太平洋側を北上する冬季発生系群が秋季〜冬季の漁獲の主体であったが、2016年以降は低調となっている(図1)。本年は夏季においても漁獲不振となり、影響が大きい(図1)。
9月に入ると三陸各地で沖合底曳網による2ヶ月の禁漁期間が明け、スルメイカ漁が再開された。八戸沖では9月中は11ヶ統が操業し30〜130トン/日の好漁が続き、石巻沖でも30トン/日の安定した漁獲が続いている。三陸沖では9月中旬でも50m深水温の平年差が5℃以上高いことから引き続き潜行群が多いと想定される。
2021年1〜8月の生鮮スルメイカの累計水揚量は6,470トンで、前年同期の46%、2013〜2020年の8年平均18,711トンの35%であった(図2)。2013年1〜8月は3万2千トンだったが、本年1〜8月は6,500トンで、2013年の2割の水準に低迷している。
主要港における冷凍スルメイカの8月の水揚量は429トンで、7月の816トンから半減した。しかし、9月の水揚量は9月28日現在1,578トンで、2019年9月の728トン、2020年9月の510トンを上回る久々に好調な漁獲がみられた(図3)。中型いか釣り船(船凍)の主漁場は、7月中旬以降、日本海中央部の大和堆水域であった。日本海全域では7月中旬以降、台風の通過が少なかったことから海面水温が平年差で5℃以上高い状態が続き、他の海域よりは漁獲があったものの、例年よりは漁獲が低迷した。その後、台風の通過があり、8月中旬には高水温状態が解消され、概ね平年並みの表面水温に落ち着いた。このため、9月中は大和堆〜ロシア水域で好漁がみられ、中型いか釣り船の1日1隻当たり漁獲量は、9月上旬は最高740箱(5.9トン)・平均362箱(2.9トン)、9月中旬は最高1210箱(9.7トン)・平均376箱(3.0トン)の安定した漁獲が続いた。本年8月は1,245トンで、2013〜2020年の8月平均3,515トンの22%であった。しかし、本年9月は途中集計ながら2,823トンと好転し、2013〜2020年の9月平均6,337トンの45%とやや盛り返した。なお、夏季に中型いか釣り船の主漁場となる武蔵堆(北海道西)では、今期はほとんど漁場形成されていない。
主要港における冷凍スルメイカの本年6〜8月の累計水揚量は1,239トンで、2019年6〜8月の810トンを53%上回り、2020年6〜8月の1,107トンを12%上回ったものの、2013〜2020年の8月平均3,515トンの35%であり、2013〜2018年の年間1万2千トン〜3万トンと比べると、低調な漁獲量であった(図4)。
生鮮スルメイカ産地の平均価格(図5)は、5月以降の不漁を受け、2013年以降でこの時期の最高価格帯である600〜700円/kgで高止まっている。2016年10月以降及び2019年9月以降は、ここ数年の不漁を受けて800円/kg台まで高騰した。今期好調な沖合底曳網で漁獲したスルメイカは700〜850/kgと高値が付いたものの、主に加工原料(塩辛や干しスルメなど)向けが大半であり、鮮魚向けは少なかった。
冷凍スルメイカの平均価格(図6)は、7〜8月は2020年並みの650円/kgで推移した。9月も670円/kgと概ね横ばいであった。2019年10月〜2020年3月の1,000円/kg超に比較して低水準であった。この原因として、本年はカナダマツイカやアルゼンチンマツイカ、ロシア産のスルメイカなどの海外のスルメイカ類の漁獲が増え、輸入量が増えたことが考えられる。実際、量販店などではアメリカ産カナダマツイカ(ボイルカット品)やロシア産スルメイカ(刺身のお造り)などの代替品の販売も目立った。生鮮スルメイカの高値相場は当面続くものの、冷凍スルメイカは上記のように、相場の上げ幅は小さいと想定される。
日本海の中型いか釣り船によるスルメイカ漁は、漁獲が安定しており、漁場水温も高水温状態が解消され適水温に近くなったことで、当面、大和堆を中心に安定した漁獲が今後も続くと思われる。太平洋側は、釣りは引き続き不振であるものの、潜行群が多いことから底曳網漁では安定した漁獲が続くと思われる。
(水産情報部)