・8月も大蛇行流路が継続した。大蛇行の継続期間は2017年8月以来4年に達し、1975年から5年続いた大蛇行に匹敵する。
・黒潮流路は北上部がやや東に移り、伊豆諸島西沖を北上後は石廊崎沖で西に張出し(図1-A)たものの、九州〜足摺岬(図1-@)は7月に引き続き接岸し、蛇行の最南下緯度(図1-A)も30〜31°N付近で変化は小さかった。
・黒潮流軸付近の海面水温は、上〜中旬に台風が通過した影響で昇温は弱く、南西諸島周辺は28〜29℃、九州〜四国沖は28℃、関東・東海沖は27〜28℃、房総半島沖は27 ℃で、おおむね1℃弱の昇温であった。
・流軸屈曲部からの暖水の張り出しは7月より東に移動し石廊崎〜遠州灘沖(図1-A)にみられ、近年(2011〜2020年)より1℃弱高めであった。
・黒潮以南(図1-B)は、中旬は台風通過の影響で降温した海域もみられたが、下旬は天候が回復しおおむね近年並であった。
・7月には図1-Eにあった冷水渦は8月上旬に黒潮続流の流軸と結合し、黒潮続流により北東に移動した(図1-F)。
・この冷水渦の結合とともに、黒潮系水が冷水渦Fに巻き込まれ、冷水渦の北東進と共に暖水が常磐沿岸に波及して近年より1℃前後高めになり(図1‐C)、黒潮続流北上部は離岸した。
・三陸北部沖の暖水渦C(図1-C)はやや縮小し、北西に移動して接岸したため、三陸北部沿岸は近年より1℃弱高めであった。
・7月には東進して縮小した釧路南東沖暖水塊(図1-D)は、8月には不明瞭なりほぼ消滅した。
・親潮面積は平年(1993〜2017年)よりは小さいものの、8月下旬は拡大傾向で、沿岸分枝が41°N・145°E付近、沖合分枝は40°N・147〜148°E付近まで南下した。
・三陸・道東沖(図1-D)や常磐北部沖(図1-E)は8月上〜中旬に台風9・10号により大幅に降温した後も、気象や釧路南東沖暖水塊の消滅、親潮の拡大等の影響が大きく広範囲で近年より2〜3℃低めであった。
・東シナ海は、8月後半の好天で昇温したが、台風9・10・12号や前線の影響が大きく、南部を中心に近年よりやや低めであった。
・日本海は、8月上〜中旬は台風9号の影響により北・中部(図1-I)を中心に大幅に降温した。下旬は中・北部を中心に好天が続いて水温は回復し、近年より1℃前後高めになった。一方、対馬暖流(G)以南は前線や台風12号の影響で昇温は弱く、1℃弱の低めであった。
・対馬暖流の勢力は減少傾向にあるものの、期間を通して平年(1993〜2017年)より強めであった。
・対馬暖流の主流(図1-G)は変動が大きく、8月上旬は大和堆の南を通り能登半島沖で蛇行する経路であったが、中旬以降は大和堆〜大和堆北沖を通る経路になった。
・8月上〜中旬の台風通過や前線停滞の影響で道東・三陸沖や日本海中北部を中心に海面水温は4〜6℃降温し(図2)、8月中〜下旬は近年(2011〜2020年)より大幅に低めになった。
・8月下旬〜9月上旬には天候が回復し、前線や台風の影響のあった日本海南部を除き。おおむね昇温した。
・9月中旬現在、黒潮以南や日本海中北部は近年より1〜2℃程度高めまでに回復した(図3-2)。一方、道東・三陸沖では暖水渦A周辺や一部の北上暖水域(図3-B)を除き近年より2〜4℃低めの海域が広がっている。
・日本海中部の大和堆付近(図3-@)の海面水温は9月に入り近年並(図2)に回復したが、道東(図3-A)、道東沖(図3-B)は9月も近年より低めで推移し、近年平均の9月下旬〜10月上旬並である(図2)。
・道東周辺は、釧路南東沖暖水塊が消滅し、道東海域(図3-A)の各層観測(気象庁TESAC報)では広範囲で図4のような※低温低塩分の親潮系水が観測されており、1℃程度低めで推移すると考えられる。
・しかし、道東沖海域(図3-B)の9月中旬の降温が近年平均より弱いこと、図3のB付近の暖水が北上していること、160°E以東の北西太平洋には平年(1991〜2020年)よりかなり高めの海域が広がっていることなどから、約1ヵ月より先は近年平均より高めになると考えられる。
・大和堆周辺の海面水温は、9月中旬には近年並に回復し、9月中旬の降温も近年平均より弱く、日本海中・北部も近年より高めである。このため、台風通過等が無い限りは近年より1℃程度高めで推移すると考えられる。
※親潮域は、水温は5℃以下(100m以深)、塩分(海水1s中に含まれる塩類のg数に相当)おおむね33.7以下