浜のおかみさん

2010年12月号
各浜にある女性グループでは、地元で水揚される魚介類を原材料とした様々な水産加工品を独自に開発して販売する取り組みが盛んになってきています。そのような各自の実践事例を毎月レポートします。
川定水産

川定水産

取材・執筆:おさかな調査員 no.007

小田原魚市場

市場 湘南と言うより西湘地区。そこに有るのが相模湾、駿河湾の魚を一手に引き受ける海の台所、小田原魚市場。小田原以西から湘南までの多くの胃袋を請け負っています。

 特に小田原は奥に箱根をかかえ、旅館の厨房も支えているのです。 初冬とも言える市場にはキンメ、マダイ、イトヨリ、アマダイ、クロムツ、宗田カツオ、ブリなどたくさんの魚が並んでいました。

 さて鍋物ナンバーワン!と言えばアンコウ。東京では鰹と昆布でとったダシに味醂、醤油で味付けをしてあっさり味。茨城に行くと、肝を鍋で空煎りして水を足してアンコウの身を入れ、お味噌で味つけをします。さて忘れてはいけないのがアンキモです。当日の小田原は肌寒く、市場にアンキモが並びました。こんな季節が来た事を感じました。

多美子さん

多美子さん この市場に毎朝、仕入にくる平塚の「川定水産」。その女将「多美子さん」は魚を料理するのが大変に上手です。店にはいつも、自家製干物はもちろん、ツミレ、押し寿司、酢の物、煮物などが並びます。地物や丁寧に吟味された物で作ります。女将が一人で手作りするので大量生産は出来ません。大変に評判が良くあっという間に売り切れです。

 朝4時起きでご主人と市場に行く多美子さんですが、7時に店に戻ってから開店まで、仕入に使ったトラックの掃除から店の準備まで一人でこなします。8時には一番目のお客さんが「おはよう!なんか刺身ある?」と姿を見せました。

アンキモの蒸し物

  • 1・アンキモは 綺麗に掃除してから30分ほど塩をします。
  • 2・さっと塩を流し お酒を全体にたっぷりとかけます。
  • 3・ホイルで包み、巻きすで巻いて 蒸し器の中へ
  • 4・30分ほど蒸したら出来上がりです。
  • 5・巻きすのまま 涼しい所で冷まします。
  • 6・ポン酢と紅葉おろしがお奨めです。
  • アンキモ
  • アンキモ
  • アンキモ
  • アンキモ
  • アンキモ
  • アンキモ

川定ご夫妻

川定ご夫妻 小柄な多美子さんが一人で頑張るのには理由が有ります。「定一ちゃんが事故してから足が痛むみたいだし、他に何か仕事するって言っても魚屋しか出来ないよね。定一ちゃんの魚の目利きは最高だからねえ」と、屈託なく笑います。

 店主の後藤定一さんは2年前、交通事故に巻き込まれて重傷を負いました。その時は誰もが店をしめるものと思いました。しかし、お店を愛してくれるなじみ客達が「銀行に行ってくる」「帰りに配達してあげる」と手伝い始めたのです。お陰で店は、少ない休業期間のみで再開することが出来ました。なじみのお客さんに愛される訳は、この女将の細やかな心遣いと目利きのご主人が選んだ魚です。週末には遠い所から車でやってくるお客さんもいます。

 「まあねえ私が頑張るしかないもんね」と、笑顔でお店に立っていました。傷みを抱えたご主人も、時には顔をほころばせます。お義母さんの「店は多美子のお陰だよ」の言葉が、ずっしりと重たく感じた一日でした。

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